SFもホラーもサメ映画並みに特定特殊ジャンルと思われているエンターテイメントのいちカテゴリーですが、まったく相反するものではありません。
むしろ、SFとホラーは相性が良い、と言われています。政治家、麻生太郎の従弟で、『ひらけ!ポンキッキ』の番組キャラクターであるガチャピンのモデルとなった宇宙軍大元帥、野田昌宏氏は「SFはやっぱり絵だねぇ」という歴史に残る名言を残しましたが、ホラーもまた、ビジュアルに重点がおかれるジャンルです。
ホラーに関してはいや、重点が置かれるのはシチュエーションだろう、暴力だろう、という意見もあると思います。
シチュエーションなら暗さや閉塞感、シュールさをどう描くのか、暴力描写ならロドリゴ・アラガォン監督の南米映画「シー・オブ・ザ・デッド」のような血量を争うスプラッタなのか、針で爪と指の間を指すような痛さを描くものなのかで、ベクトルが違ってきます。
おそいかかるモンスターや不条理が、SF、科学的な空想に基づいたビジュアルをまとう、というのはより面白みを増すことのできる、良い組み合わせだと思います。
昔の人は言いました。「好きと好きで大好きになるカツカレーの法則」と。SFホラーはこのカツカレーの法則が生きているジャンルだと思います。
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ちなみに筆者はホラーが苦手です。SFが好物です。SFかと思えばSFホラーも見られます。なので、今回はSFホラーの中でもSF寄りの紹介になります。
三池崇史監督の「インプリント ~ぼっけえ、きょうてえ~」のような方向性の作品はでてきませんので、強烈な拷問、陰惨なシーンが苦手な方はご安心ください。
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SFホラーって?
SFとは科学的な空想を題材や舞台などに使用、もしくは科学的なことを題材として価値観の転換による驚きや開眼といった心理的側面を描いたフィクションの総称となります。
ホラーとは娯楽作品のなかで、恐怖感を味わうもの、恐怖を主題とするエンターテイメントの総称となります。
合体させると、要するに「科学的な空想を題材、もしくは舞台に設定したうえで、恐怖を主題とするフィクション」となります。
例えば、
宇宙を舞台に空想上の地球外生命体を設定し、生命が脅かされる、死ぬかもしれないという恐怖を描いたのがエイリアンシリーズ、ということです。(異論はあると思いますが、筆者の一意見として受け止めてください)
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SFホラーの魅力
SFのどこに、ホラーのどこに魅力を感じるかは、あまりに千差万別すぎて一言では言えません。おそらく、SFホラーを見る人の数だけ、魅力があるのではないでしょうか。
筆者が個人的に感じるSFホラーの魅力は、なんといっても「恐怖のビジュアル」です。日本的なじめっとした恐怖のビジュアルの例では有名どころで「リング」がありますでしょうか。筆者はこれが怖くて怖くて、ホラーは見られません。。
しかし、SFホラーの恐怖のビジュアルはどこか力強く、壮大で、パワーを感じます。SFホラーというジャンル自体、日本よりも海外で量産されているせいなのか、なにに恐怖を感じるかが根本的に日本と違う気がします。
また、恐怖に立ち向かう手法もより具体的で明快な気がします。筆者はそこに魅力を感じます。
なお、日本にも具体的で明快な方法で恐怖に立ち向かう作品もあります。SFホラーではなく、ホラーギャグ漫画ですが押切蓮介氏の漫画「でろでろ」です。妖怪、おばけ、殴れます。
でろでろ
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日本的な恐怖の演出を否定しているわけではないことはご理解いただきたいかと思います。リングは映画よりも小説版の方が怖さを感じました。読後感の悪さも良い具合です。
リング
SFホラーの監督
日本では「アニメ映画監督」「特撮映画監督」と特定のジャンルをよく撮る監督、という枕詞が存在しています。たとえば、「時をかける少女」の細田守監督、「君の名は。」の新海誠監督はアニメ映画監督、ですね。
アニメであれば純愛でも青春でもコメディでもアニメ映画監督になるのと訳が違って、SFホラー監督というものは物語の骨格部分が制限されてしまいます。
SFホラーはそもそもがエイリアンなどの一部の超ド級の有名作品をのぞいて、基本的にマニアックなジャンルです。残念ながらSFホラー監督とは存在せず、私の知る限り、SFホラーを撮る監督はえてしてテイストの違う作品も撮る気がします。
エイリアン4を撮ったジャン=ピエール・ジュネ監督はアメリを撮りました。
アンリ
SFホラーで監督を見る時は、「え!?あの監督ってばこんなのも撮ってるの?」という驚きをもって興味を持たれるのが面白いと思います。
ジョン・カーペンター監督はSFホラーというよりホラー映画監督だと思っていますが、みなさまはどう思われます?
SFホラー9選
映画編
遊星からの物体X
避けて通れない「遊星からの物体X」「遊星からの物体X ファーストコンタクト」
前日譚にあたるファーストコンタクトは賛否両論ありますが、続けて観る楽しみ、何年経ったのちに新作が観られる楽しみがあるのは有名作品だけの特権です。楽しみましょう。
ジャンルとしては侵略SFになりますが、それを恐怖感をもって描いたSFホラーになります。古典ですが、恐怖の演出などは古びません。
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エイリアン
すでに冒頭であげていますが、「エイリアン」「エイリアン2」「エイリアン3」「エイリアン4」「プロメテウス」「The Crossing」「エイリアン: コヴェナント」の一連のエイリアンシリーズも外せません。
「プロメテウス」は関係者がエイリアンシリーズなのだと明言したり、関連性をほのめかすだけだったり、フランチャイズといったりして曖昧な状態ですが、筆者の周りでは「エイリアンシリーズと言われればそういう気もする」という評価です。
今回はエイリアンシリーズと称してより多くのSFホラーを紹介したいこともあり、追加しました。
1作目「エイリアン」は1979年とすでに公開から40年近くが経過しており、映像の粗さやCG、特撮の粗末さにも目がいきますが、閉塞空間で未知の巨大な力が襲い掛かる恐怖、宇宙船という舞台装置、アンドロイドなどのガジェットたちと、魅力は衰えることはありません。
世間では評判の良くない「エイリアン3」ですが、筆者はこの劇場版エンディングからの、「エイリアン4」でのクローンの展開にはSFらしさを感じておりむしろ高評価です。
このあたりはエイリアンシリーズのどこを見るかで評価が分かれるところですが、SFホラーというよりSFアクション映画の「エイリアン2」は盤石の面白さなので、1、2と未見でしたらおすすめです。
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SF/ボディ・スナッチャー
ジャック・フィニイのSF小説「盗まれた街」を原作とする「ボディ・スナッチャー」は1956年に最初に映画化され、知る限り 4 回リメイクされている、愛される古典名作です。こちらも侵略SFです。
特に、2 回目のリメイクとなったドナルド・サザーランド主演の「SF/ボディ・スナッチャー 」は暗く、静かで、絶望的であり無力感にさいなまれる最後は素晴らしいの一言です。
派手でもなく、爽快感もありませんが、背筋がゾッとする1本です。
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スペースバンパイア
映画編の最後に、「スペースバンパイア」は1985年に公開されたイギリスのSF映画です。
一定年齢以上の方には有名な作品で、今は亡きTV番組「日曜洋画劇場」で何度も放送されていた時期があります。
SFホラーな展開で始まりますが、途中からあらゆるエンターテイメント要素を盛り込み始めるB級映画あるあるの展開になり、最後はもはや おつ と評したい展開を迎えます。
作品としての評価はそこまで高いとは思いませんが、この作品が有名なのは出演者の女優、当時19歳のマチルダ・メイのおっぱいのおかげです。
おっぱいのことはさておいて、SFホラーというただでさえジャンルが重なり合ってできた映画ジャンルに、新たにエロ、ゾンビ(しかも走る)、感染と追加トッピングを盛り込んだ、ある意味エポック・メイキングな怪作だと思います。
なお、監督は「悪魔のいけにえ」を撮ったトビー・フーパー監督です。
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小説編
影が行く―ホラーSF傑作選
SFホラー小説は日本が百花繚乱ですが、海外にもSFホラーは存在します。
そうは言っても海外作家わからないし、どこから手をだしてよいのか…と悩む場合は「影が行く―ホラーSF傑作選」です。
現在も作品を書き続けるディーン・R・クーンツから50年代SF作家のアルフレッド・ベスターまで、幅広い作家を集めたアンソロジーで、現在入手できる可能な中では頭1つ飛び出る書籍ではないでしょうか。
タイトルとなっている「影が行く」は前述の「遊星からの物体X」の原作となります。
なお、現在出版されている創元SF文庫の傑作選は他のシリーズも読みごたえのある満足感高いシリーズですのでおすすめです。
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シェイヨルという名の星
コードウェイナー・スミス の「シェイヨルという名の星」は壮大なイマジネーションと非人道的な世界の描写に愕然とした物語です。怖かったSFと聞いて、筆者がまっさきに思い出す短編小説です。
エヴァンゲリオンでその名前だけが独り歩きしてしまった「人類補完機構シリーズ」の1篇になります。
壮大な未来史の一遍なのでこの物語だけを読むと突拍子もなさすぎるかもしれませんが、人類補完機構シリーズは未来に残したい、未来に残る傑作シリーズです。
短編集「アルファ・ラルファ大通り (人類補完機構全短篇2)」に収録されていますが、「スキャナーに生きがいはない (人類補完機構全短篇1)」とあわせて読むとより楽しめます。
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光る眼
映画編で侵略SFが多かったので、同じ侵略SFの小説「呪われた村」を推したいのですがすでに廃盤で入手困難となっており、非常に残念です。
映画はジョン・カーペンター監督によってリメイクされ、「光る眼」としてまだ入手可能です。
まとめ
SFホラーと称される作品を映画だけにこだわらず、またエンターテイメントのベクトルにも縛られずになるべく広範囲に紹介してみました。
映画、小説、漫画でもレビュー記事はインターネット上にたくさんありますが、それを読んで知った、観た、読んだ気になるのは非常にもったいないと思います。
少しでも食指が動いたら、まずはちょっと見てみて、やっぱりSFはダメだな、ホラーは苦手だなってなったらそれを新しい発見として楽しみましょう。
もし、少しでも面白いなって思っていただけたなら、新しい世界の幕開けとして固定観念に縛られず、まずは目についた作品、名作と呼ばれるものを見て、読んでみることをおすすめします。
新しい娯楽は常に、新しい出会いから始まるのですから。